半畳ぐらいのスペースで濃密な世界が繰り広げられているわけ。
ほとんどの男性が経験あると思うのですが、子供の頃プラモデルに嵌ったことおありでしょ???現代はガンダムやエヴァンゲリオンになるのでしょうか、私が小学校高学年の頃はタミヤの1/35シリーズでした。ちょうどドラマ『コンバット!』の何回目かの再放送が行われていた頃、そうそう『ラットパトロール』なんてのもありましたな。普通はサンダース軍曹(Vic Morrow)に憧れるものなのですが、その頃から捻くれていた私は女ったらしのケリー上等兵(Pierre Jalbert)がお気に入り、吹き替えの故山田康雄がピッタリ嵌っておりました。黒のベレー帽姿がかっこよかったなあ。
そんなわけで戦争モノのジオラマに凝るようになるのですが、作るのはもっぱら旧ドイツ軍のものばかりなわけ。やはり兵器や軍服のかっこよさが図抜けておりますからね。中でも好きだったのがⅣ号戦車H型(シェルツェン付きのね)と水陸両用のシュビムワーゲン。激しい戦闘の後、瓦礫の中に佇むこの二台的な情景を作っては、ウオッ、スゲー!!なんてやっていたわけです。出来はお察し、マニアの方からすれば鼻で笑われそうな酷いものだったかと・・・よく覚えていないけど・・・。
そんな感じかどうかは分かりませんが、ジオラマに嵌った子供の気持のまま大人になってしまったような方の作品を青梅で鑑賞することができます。それが造形作家の山本高樹氏、ご存知の方も多いと思いますが、昭和レトロをテーマにしたすんばらしいジオラマを作り続けているお方。最近ではNHKの朝ドラ『梅ちゃん先生』のオープニングに使われていたといえば、いちばん分かりやすいでしょうか。昭和レトロがテーマですので、看板建築が並ぶ商店街、チンチン電車が走る銀座的な作品もありますが、此処青梅では遊里がらみの作品を鑑賞できるというのがミソ。とりあえずその空気感を味わっていただけければと思います。まあ、実物を見るのがいちばんですけどね。
大変申し訳ない!!上記のようなことを書いてから気付いたのですが、以下のジオラマは現在青梅では見ることができないようです。作品を展示していた昭和幻燈館が展示物を一新されてしまった模様、山本高樹氏の作品は『昭和幻風景ジオラマ展』という形で全国巡回中とのことでした。スケジュールが分かる氏のブログ貼っておきます。この時は館内が想像以上に真っ暗、持ってきたレンズが所謂おでかけズームレンズで四苦八苦、うまく写せなかった作品もありました。やはり不慣れなマニュアルはあきまへんなあ。そこで3回目は滅多に出番がない明るいマクロレンズを持ってきたのに、なんと臨時休館、この時点で何かおかしいなと思っていたのです。何が言いたいかというと、以下の画像、いつにも増して出来が悪いですよと予防線を張っているわけ(笑)
昭和幻燈館は旧青梅街道沿い、住吉神社の鳥居脇にあります。
200円を払って入館すると、いきなりアラーキーがお出迎え。情事なる写真集からですな。モデルは白都真理、最近女優に復帰されたそうです。和服フェチは必須の一冊、もちろん私も持っておりますよ。
こ、これは、たまらんち会長・・・ダジャレも昭和ということでお許しくだされ。
此処からが本番、『隠れ里の温泉』・・・山奥にひっそりと佇む茅葺二階建ての温泉宿、傍らの吊橋には浴衣姿の女性。彼女が見つめる先には・・・
ほろ酔い加減のお父さん。二人の関係は?間違いなく親子ではないでしょうね・・・そうなると、何かの逃避行?此処から先の妄想はご自由に。
『青梅猫町通り』・・・この大門に見覚えはありませんか?そう、モチーフはキネマ通りのアレです。左の現存するパーマ屋さんはカフェーまたたびさんに、今は亡き右は何だったのか覚えておりませんが、ねずみ屋さんなる飲み屋という設定。猫町ということで、登場人物は全てニャンコ化しております。またたびさんの妖しげな紅い灯りの演出がお見事。
中央のニャンコはすぐに分かりますよね。そう、永井荷風先生であります。昭和の象徴ということなのか、ほとんどの作品に先生が登場しているわけ。ねずみ屋さんのお品書き、スズメにトカゲって、ニャンコが捕ったよって飼い主に得意げに持ってくる獲物ですよね。背後の爪研は人間界でいうところの耳かき専門店ではないかと(笑)
またたびさんの二階ではお姉さんが左手で招いております。まあ、客が来ないことには商売になりませんからね。
『妖しの見世物小屋』・・・左手奥に主題の見世物小屋があるのですが、見事に撮影失敗。それでもワクワクするような夏祭りの雰囲気がよく分かるのではないかと。涼しげな浴衣姿の美少女がいいね。りんご飴が食べたくなりました。
コチラは題名不明、河畔に積み重なるようにして続く船宿が凄い、まるで逆柱いみりの世界ですなあ。係留された紅い灯りが洩れる船の居酒屋、そして物憂げな様子で手摺にもたれかかる女性。おちょろ舟がモチーフというのは考えすぎでしょうか。
この場所は古い町並みなどが好きな方ならすぐに分かるのではないでしょうか。まあ、当たっても何も出ませんけど。
正解は本郷菊坂町の此処でしょう、間違っていましたらご免なさい。
そうなると、洗い髪を掻き上げる浴衣姿の女性は樋口一葉ということになるのかと。敷石の質感が素晴らしいのはいいのですが、一枚一枚が大きすぎるような・・・どうもそういうディテールが気になって仕方がないわけ(笑)永井荷風と樋口一葉って接点あったのでしょうか。
『荷風と額縁ショウ』・・・踊り子さんが音楽に合わせて脱いでいく現在のストリップになる前はコレでした。コチラはヴィーナスの誕生ですが、額縁の中で有名絵画の真似をした女性が無言でポーズを取るだけ。要するにお上に対して、これは芸術なんだから、文句ある?ということだったらしいです。客席はどんな感じだったのでしょう、客も終始無言だったらちょっと恐いかも(笑)先生、見る方向が違うでしょ。
さあ、いよいよ、いちばんの大作ですよ。『墨東の色街』・・・冒頭画像がコチラ。ご存知『濹東綺譚』の一場面という設定だと思います。戦前の私娼窟玉の井、曲がりくねるドブから分岐する迷路のような路地、それ沿いにビッシリと軒を連ねるお店。ハートを模した窓も散見されます。
そして燦然と輝く『ぬけられます』の看板、すんばらしいじゃありませんか。下の二人は「遊んでいかない?」なのか「また来てネ」なのか、判断が難しい(笑)
橋の真ん中に悄然と佇む荷風先生、いや、この場合は大江匡か。お雪の面影でも探しているのでしょうか。
いろいろと妄想が膨らむ光景ですが、戦前の玉の井では女性は表に出て客引きはしなかったそうですので、戦後の赤線時代とごっちゃになっているのかも。『ぬけられます』の看板や女性のワンピースも戦後のものですよね。でも、人物が出てこないと作品にならないものね。細かい処はいいんだよ、といわけでこの濃密な空気感をお楽しみ下さい。
サービスカット、コチラもいろいろと妄想が膨らむ・・・いや、このあたりで止めておきましょう。
いちばん好きな作品というのがコチラ。カフェー黒猫さん、モルタル掻き落とし風の質感がお見事、コレどうやって作っているんだろう。それに対して、一階円柱の市松模様モザイクタイルの出来はあれですが(笑)強いて言えば、ポーチや店内にも華美なモザイクタイル炸裂して欲しかった。
向かいには荷風稲荷大明神、これはご利益ありそう(笑)奥の半纏姿の今にも揉み手しそうな男性は客引きでしょうか。先生と女給さんの会話が気になりますなあ。そんなことより、チャイナドレスの腰辺りのまろやかな曲線が・・・たまらんち会長。
以上のすんばらしい作品を鑑賞して、過ぎ去った子供の頃の思い出が蘇り、創作意欲がメラメラと再燃。架空の色街みたいなものを作れたらなあと思ったのですが、フィギュアを作る才能が皆無なことに気付き一気に萎えましたわ。まあ、お近くに個展が巡回してきたら是非とも足をお運びくださいな。たちまち昭和にトリップできるはずですから。